診療科の紹介
地域中核病院整形外科として、急性期医療を中心に整形外科全般にわたる活発な診療活動を行っています。的確な手術、感染防止、早期リハビリテーション、十分なインフォームドコンセント、リスク管理(事故防止)、チーム医療、専門化の充実などに努め、良質で安全な医療の提供と入院期間の短縮を図っています。すでに確立された治療法を確実に行うことを重視し、同時に、専門化した分野(膝・股・肩・足関節外科、脊椎・脊髄外科、スポーツ整形外科、関節リウマチ)では高度で先進的な医療を提供しています。
手術は2016年は1623件でした。手術に際しては、その必要性について十分な吟味を行った上で決定しています。当科の地域における診療上の主な役割は、詳しい検査などを行って診断を確定すること、手術が必要かどうかの判断と実際に手術を行うこと、および救急医療と考えています。したがって、救急医療や急性期の入院、精査、手術以外の診療の大半は、地域の医院や診療所などの医療機関(かかりつけ医やリハビリ関連病院)にお願いしています。
認定施設
可能な検査・治療・器械について
検査
単純X線撮影、透視、CT(単純、造影)、MRI・MRA(単純、造影)、脊髄・椎間板・神経根造影・造影CT、関節造影、血管造影、骨密度測定(DXA)、RI(骨シンチグラフィーなど)、超音波、電気生理学的検査(筋電図、神経幹伝導試験、神経伝導速度測定など)、穿刺(関節、骨髄、脊椎、椎間板、腫瘤、膿瘍、CTガイド下など、治療も兼ねる)、関節鏡、病理組織学的検査(切開生検、針・吸引生検、関節鏡視下生検など)、各種血液・尿検査(骨代謝・骨粗鬆症関連・骨代謝マーカー、関節リウマチ関連・血清免疫学的検査、各種腫瘍マーカーなどを含む)、コンパートメント圧測定、ドプラー(動脈拍動検知)など
治療
運動器(骨、関節、筋・腱、靭帯、神経、血管、脊椎・脊髄など)疾患・外傷全般にわたる手術療法と代表的手術療法:骨折に対する手術療法(AO法などによる観血整復内固定術、骨折部を開けない閉鎖性髄内釘の多用や特殊プレート・スクリュー・ピン・ワイヤーなどを用いた小侵襲手術、人工骨頭、創外固定、など)、脊椎・脊髄手術(椎弓拡大・形成、前方・後方椎体間固定、後側方固定、インストゥルメンテーション、顕微鏡下髄核摘出、内視鏡下髄核摘出、顕微鏡下脊髄腫瘍切除術、顕微鏡下片側侵入両側浮上術など)、関節鏡視下(最小侵襲)膝関節手術(前十字靭帯再建術、半月板縫合・切除、滑膜切除、関節鼠摘出術など)、関節鏡視下(最小侵襲)肩関節手術(反復性肩関節脱臼、肩腱板損傷など)、反復性膝蓋骨に対する関節形成・制動術、人工股・膝関節形成術、骨移植術、腱縫合・形成術、神経剥離・縫合・移植術、腱鞘切開術、手根管開放術
器械
MRI、CT(3次元CT、MPRを含む)、DXA、RI、超音波装置、X線撮影装置、透視装置、電気生理学的検査機器、ドプラー、関節鏡、各種関節鏡視下手術用器械(ベーパー、シェーバーなど)、レーザー、手術用顕微鏡、ナヴィゲーション、脊髄電位モニター、CPM(持続的他動関節運動)マシーンなど
臨床指標
当科の脊椎手術の安全性と質の指標
術後1年以内の手術に関連した死亡数と1年以内の予期せぬ再手術を安全性の指標として取り上げました。整形外科以外の手術においては術後1月以内の死亡が安全性の指標とされているのでそれも追記しました。
脊椎手術は生活の質を向上させるために行っており、通常は死亡を予期しておりません。したがって、早期の死亡例は脊椎手術安全性の指標になりうると考え、その原因とともに記載します。当院にかからず死亡された症例は含まれておりません。
手術は一度行えば、長期にわたり良好な状態が維持されることが理想です。患者にとって、早期の再手術は避けたいものです。疾患により、早期に複数回手術が必要な病態もあります。しかし、予定外の早期の手術は減少させねばなりません。したがって予定外の早期の再手術率は当科の脊椎手術の安全性や質の指標となりえるので記載します。
調査方法:一年以内の死亡、一年以内の再手術症例は病歴室の記録から病歴室担当者が抽出しました。一年以内の再手術症例は当科独自のデータベースと比較し欠落があった場合には追加しています。当科医師が各症例のカルテを調査しその原因を抜き出しました。
1:早期死亡
年 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 |
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全脊椎手術 | 316 | 303 | 373 | 444 | 452 | 518 |
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1年以内の死亡 | 2 | 3 | 6 | 3 | 4 | 2 |
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上記のうち1月以内の死亡 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
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死亡理由 | |
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転移の手術で元の癌の悪化 | 0 | 1 | 4 | 0 | 1 | 1 |
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感染の手術後、抗菌薬のアレルギー | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
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感染の手術で元の感染症が悪化 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
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術後感染 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
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他臓器疾患のため | 2 | 2 | 1 | 2 | 3 | 0 |
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解説:1年以内の死亡症例は、癌の転移があり手術により疼痛や麻痺の進行を防止したほう有利と判断した症例、重症感染症で掻把洗浄手術を行ったにもかかわらず感染症を制圧できなかった症例でした。他臓器疾患での死亡は手術とは関連ない消化器、心臓疾患などで死亡した症例でした。1月以内の死亡例は元疾患診断目的で生検を行ったが元疾患が進行したためで、他臓器疾患のために含まれています。これらのうち手術に関連し予定外の死亡は2014年の抗菌薬アレルギーにより間質性肺炎を発症した1例、2016年の術後深部感染による1例でした。術後深部感染例は糖尿病、透析、肝硬変など重大な合併症があり、手術適応が難しかったのですが、頚髄症で四肢麻痺の進行があったため手術にチャレンジした症例でした。
2:早期再手術
年 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 |
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全脊椎手術 | 316 | 303 | 373 | 444 | 452 | 518 |
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●1年以内再手術件数 | 29 | 23 | 30 | 45 | 43 | 57 |
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A:深部SSI | 2 | 6 | 7 | 5 | 9 | 12 |
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B:スクリュー位置不良などインプラント問題 | 2 | 1 | 1 | 5 | 5 | 4 |
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C:同部位、隣接の再発、拡大術後脊髄ヘルニア含む | 6 | 5 | 7 | 6 | 9 | 17 |
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D:術後血腫 | 4 | 1 | 0 | 6 | 2 | 1 |
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E:浅層SSI | 2 | 0 | 0 | 1 | 4 | 3 |
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F:SSIでない創の再縫合、髄液漏閉鎖含む | 2 | 3 | 0 | 1 | 3 | 3 |
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G:神経麻痺の原因追及の再手術 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
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H:レベル間違い | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
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I:他部位の手術 | 4 | 4 | 7 | 11 | 8 | 10 |
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J:外傷、予定前後や抜釘 | 6 | 0 | 3 | 3 | 0 | 2 |
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K:腫瘍再発 | 0 | 1 | 1 | 2 | 0 | 0 |
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L:感染性疾患での再手術 | 1 | 1 | 4 | 3 | 3 | 5 |
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M:SSIではない化膿性椎間板炎 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
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1年以内の予定外再手術(A~H) | 18 | 17 | 15 | 25 | 32 | 47 |
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1年以内の予定外再手術発生率(%) | 5.7 | 5.6 | 4 | 5.6 | 7.1 | 9.1 |
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解説:再手術の原因は、上記のごとく様々です。深部SSI(SSI=手術部位感染),スクリューなどの位置不良、同部位や近隣での再発、術後血腫、浅層SSI、創の再縫合、神経麻痺原因追及、などは予定外の再手術です。< /br> 一方、それ以下の項目の手術は想定される再手術と考えられます。別部位の手術は首の手術後の腰の手術などのことで、2か所病気がある方は2度の手術になります。外傷などでは入れた金属を抜く手術を行うことがあります。また、病気によっては当初から2回以上の手術を予定していることもあります。悪性腫瘍では早期に再発することがあります。感染性疾患は一度の手術で治癒できないことが比較的よくあります。したがって、これらの項目の再手術は安全性の指標とはせず、予定外の再手術と区別しました。2015年、2016年での深部SSIや同部位、隣接での再発の増大は骨粗鬆症性椎体骨折に対する手術(固定範囲が長く、早期に隣接椎体の骨折が多い)が増加したからと考えており、現在、骨粗鬆症性椎体骨折の手術方法について検討中です。
腰部脊柱管狭窄症の手術成績
腰部脊柱管狭窄症は当科の脊椎手術中最も多い疾患です。その手術成績は当科脊椎手術全体の成績の一つの臨床指標になると考えました。症例は当科の手術データベースから腰部脊柱管狭窄症という病名を含むものを選択しました。
手術成績を評価するには術前と術後の状態を科学的に記録する必要があります。記録の有無は科学的評価に対する臨床指標となります。そのため、術前、術後2年で評価を行っている割合を調査しました。一般的に脊椎手術の評価は最低でも2年間経過を見ることが必要とされています。
理想はすべて100%ですが、術前、術後の評価率はともに70%程度で、科学的に記載しようという姿勢が当科では不十分であることがわかりましたので改善中です。
評価の方法として、Oswetry disability index(ODI、値が小さいほどよい)という世界的にその妥当性が認められている質問票、腰痛と下肢痛と下肢のしびれ、それぞれのNumerical rating score(NRS,程度を0から10までの数字で評価、点数が低いほどよい),日本整形外科学会の腰痛、下肢痛、歩行能力のスコア(0から3点、点数が低いほど悪い)、日本整形外科学会の日常生活活動度(ADL、0から14点点数が低いほど悪い)、術後の満足度(A:満足、B:やや満足、C:やや不満、D:不満)を患者さんに記載してもらっています。医師が記録すると良い点数をつける傾向がある(術者のバイアス)ので、そのバイアスを排するために、患者さんが自分でその程度を記載する患者立脚型の評価となっています。術前は病室で、術後は診察待ち時間の間に医師がいないところで記載してもらいます。
腰部脊柱管狭窄症の手術には固定術と除圧術があります。また一椎間手術から複数椎間の手術を行う方などさまざまです。今回の指標はこれらすべてが含まれた値です。
1:術前・術後に症状の科学的評価を行った割合
手術を行った年 | 2011 | 2012 | 2013 |
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手術件数 | 128 | 136 | 151 |
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術前評価あり | 98 | 114 | 95 |
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術前評価あり(%) | 77 | 84 | 63 |
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2年時再来あり | 104 | 116 | 109 |
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2年時再来評価あり | 91 | 95 | 104 |
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2年時再来評価あり(%) | 71 | 70 | 69 |
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2:さまざまな評価法による手術成績
手術を行った年 | 2011 | 2012 | 2013 |
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術前 | 術後 | 術前 | 術後 | 術前 | 術後 |
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ODI | 44 | 28 | 46 | 23 | 44 | 23 |
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NRS腰痛 | 4.2 | 2.9 | 4.9 | 2.8 | 5.2 | 3 |
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NRS下肢痛 | 6 | 2.6 | 5.8 | 2.2 | 6.4 | 2.3 |
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NRS下肢しびれ | 5.3 | 3.1 | 5.5 | 2.7 | 5.5 | 2.8 |
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JOA歩行 | 0.9 | 1.9 | 0.8 | 2.1 | 1 | 2 |
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JOA腰痛 | 1.5 | 2 | 1.4 | 1.9 | 1.4 | 2 |
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JOA下肢痛としびれ | 1.2 | 1.7 | 1.3 | 1.8 | 1.4 | 1.8 |
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JOAADL | 7.1 | 10 | 7 | 9.6 | 7.7 | 10 |
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満足度 | | | | | | |
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A | | 46 | | 46 | | 69 |
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B | | 27 | | 30 | | 26 |
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C | | 10 | | 12 | | 6 |
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D | | 2 | | 2 | | 2 |
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空白 | | 6 | | 5 | | 2 |
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人工関節手術の臨床指標
① 術後合併症の発生率
1)術後肺塞栓症
| 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 |
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人工股関節 | ー | ー | 1.0%(1/100) | ー |
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人工膝関節 | 3.0%(2/67) | 1.0%(1/102) | 0.9%(1/108) | ー |
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2)手術部位感染(SSI)
| 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 |
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人工股関節 | 表層感染 | ー | ー | 1.0% (1/100) | ー |
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深部感染 | ー | ー | ー | 0.7% (1/147) |
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人工膝関節 | 表層感染 | ー | 1.0% (1/102) | 1.9% (2/108) | ー |
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深部感染 | ー | ー | ー | ー |
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3)人工股関節 術後脱臼
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 |
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2.9%(2/68) | 1.3%(1/75) | 3.0%(3/100) | 0.7%(1/147) |
解説: 手術を受ける際にご説明したとおり,実際に起きる可能性としては低いのですが人工関節手術では上記合併症に注意する必要があります。当科での発生率を記載しました。
② 入院期間と自宅への退院について
人工股関節 | 2014年 68例 | 2015年 75例 | 2016年 100例 | 2017年 147例 |
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75歳未満 | 入院期間 | 23.5±17.5日 | 19.1±8.7日 | 22.0±16.0日 | 17.5±7.0日 |
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自宅退院 | 83.3% (35/42) | 93.5% (43/46) | 88.1% (52/59) | 90.7% (68/75) |
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75歳以上 | 入院期間 | 21.2±7.2日 | 23.1±14.5日 | 27.3±15.9日 | 21.7±14.5日 |
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自宅退院 | 73.1% (19/26) | 75.9% (22/29) | 68.3% (28/41) | 72.2% (52/72) |
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人工膝関節 | 2014年 67例 | 2015年 102例 | 2016年 108例 | 2017年 155例 |
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75歳未満 | 入院期間 | 21.3±6.8日 | 19.4±9.9日 | 21.7±12.2日 | 17.6±5.8日 |
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自宅退院 | 80.0% (24/30) | 94.3% (33/35) | 96.2% (50/52) | 93.8% (61/65) |
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75歳以上 | 入院期間 | 20.5±5.6日 | 20.1±7.5日 | 19.0±8.0日 | 19.9±5.0日 |
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自宅退院 | 70.3% (26/37) | 68.7% (46/67) | 73.2% (41/56) | 75.6% (68/90) |
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解説: 人工関節手術は関節の痛みを楽にする効果に優れています。痛みがなくなることで歩行や日常生活の改善が期待できます.しかしながら,高齢者や術前にあまり歩くことのできなかった方では術後の回復に時間がかかることが分かっています1)。当科では近隣の医療施設と連携して術後のリハビリテーションに時間を要すると考えられる方には転院を調整しています。
③ 輸血について


解説: 人工関節手術は骨を削る手術なので手術中だけでなく,術後にも出血が続きます.したがって手術を計画する際には輸血の可能性も考えて準備しています.他人からの輸血を避けるための手段としては自己血輸血という方法もありますが,年齢やその方の状態によっては自己血を準備できないこともあります.当科では器械の選択や手術手技を向上させることで術中出血が少なくなってきています(図1).今後もこれらの取り組みを続けることで他人の血液を輸血しないで済むように努めてまいります。

図1
文献
小久保吉恭ほか:人工股関節クリニカルパスのアウトカム評価,整形外科62:1197-1199,2011
骨折の再手術率
年 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 |
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A:骨折手術 | 276 | 320 | 306 | 421 | 421 | 540 | 542 |
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B:二期的な手術 | 1 | 4 | 4 | 4 | 8 | 8 | 9 |
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C:感染性疾患の再手術 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
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D:他部位の手術 | 3 | 4 | 3 | 1 | 3 | 7 | 8 |
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E:再縫合(浅層感染 含む) | 3 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
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F:手術部位感染(深部) | 1 | 0 | 3 | 2 | 0 | 0 | 0 |
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G:内固定具の位置不良・再骨折 | 2 | 4 | 1 | 7 | 6 | 10 | 7 |
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予定外の再手術(E~G) | 6 | 5 | 6 | 9 | 6 | 10 | 7 |
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予定外の手術発生率(%) | 2.2 | 1.6 | 2 | 2.1 | 1.4 | 1.9 | 1.3 |
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解説:骨折手術で31日以内の再手術症例を病歴室担当者が抽出しました。当科医師が各症例の診療録を調査し原因を抜き出しました。
骨折の治療では最初から二期的な手術を予定する場合や、開放骨折などの感染性疾患では複数回手術を行う場合があるのでこれらは予定された複数回手術に分類しました。
骨折治療においては粉砕骨折や高齢者の骨折などでは再骨折の可能性もありますが、一度の手術で良好な成績を得るのが理想であると考え、予定外再手術に分類しました。